資産価格の下落により、利払い不能に陥ったいわゆる不良債権は、定義の仕方にもよるが、すでに三十兆円ないしは五十兆円の規模に拡大していのツケであったブラックマンデーの発生により、日本の金融緩和持続が半強制的に押しつけられ、バブルを産んだ。
一九九○年の株価暴落の背景のひとつに、円安の進行があったが、この円安の背後には、円安進行にともなう金利上昇、その延長上の株価下落というシナリオが、アメリカサイドに意識されていたことが推測される。
こういう意味で、日本のバブルの生成・崩壊の過程は、アメリカの政策と密接な関わり合いを持っており、経済外交の重要性があらためてクローズアップされたわけである。
国際政策協調というベールの内側にはエゴとエゴがぶつかり合う利害の対立が存在している。
すべての国が良心的に行動することができれば望ましいが、現実の人間界に期待することはなかなか難しいのである。
性悪説とまではいわないまでも、そのような厳しい現実を踏まえた政策対応努力が求められるのである。
株価が昨年八月の一万四千円の水準から二万円台に回復したために、不安感はかなり後退したが、依然として問題処理の困難さは残されている。
この問題の処理の難しさは、異なる二つの政策課題を、同時に満足させるような解決方法を見出せない点にある。
具体的にいえば、金融システムの不安定性を回避する、つまり金融恐慌の到来といった事態を回避するという政策課題と、自由な意思にもとづいて経済活動を行なった経済主体が失敗を起こしたときには、その責任を自己で負うという、いわゆる自己責任原則を貫徹させるという政策課題が、容易には同時に満たされないという点である。
これまでの日本の金融行政の歴史的経過を無視して、白紙の状態で望ましい処理の方法を考えるならば、その答えは明確になりつつある。
破綻をきたした金融機関の責任はその金融機関に負わせる、つまり自己責任原則を貫徹させるという処理をする一方で、それにともなう金融システムの不安定性については別途対策を講じるというものである。
金融機関の経営破綻が生じても金融システム全般には影響が及ばないための方策を、セイフティネットと呼ぶことがあるが、預金保険機構の整備拡充といったような方策をとることによって、セイフティネットを確保する。
これにより、金融システムの安定性の確保と自己責任原則の貫徹の両者が満たされるわけである。
もうひとつの問題は、自己責任原則を貫徹させるための前提条件として、金融機関の行動が完全に自己責任によって行なわれてきたということが必要である。
ところが現実の金融機関の行動は、「護送船団方式」という言葉に示されるような政策当局からの有形無形のさまざまな働きかけ、指導あるいは規制を受けて、純粋な意味での自由な行動意志にもとづくものであったとはいい難い。
乱暴な言い方をすれば、政府の指導にもとづいてバブル生成の加担者となってきた金融機関の立場からすれば、バブルが崩壊したあとで、問題処理は自己責任原則で行なうという方針には承服しがたいものがある。
つまり自己責任を完全に追及できないような行政当局からの働きかけが、バブルの生成過程に存在していたわけである。
経済政策運営の難しさのひとつがここにある。
つまり白紙の状態で、純粋に望ましい政策のあり方を論ずることは可能であっても、現実の政策対応は過去の経緯の延長上でところが現状には、二つの問題点がある。
ひとつはセイフティネットが十分整備されていないという点である。
これまで日本の金融行政は、銀行はつぶれない、あるいはつぶさないという、いわゆる「不倒神話」を成立させることにより、維持されてきた面が強い。
したがっていざ金融機関の破綻が発生してしまった場合の混乱は、非常に大きなものになる恐れがある。
行なわれないのである。
過去に正しくない政策が行なわれた場合、その歴史的経過を無視して、次の時点で純粋に正しいと考えられる政策を断行することは公正さを欠いているといわざるを得ない。
今回の日本の金融問題の処理にあたり、こうしたやや複雑な事情を考慮しないのは理不尽である。
中長期的に自己責任原則を貫徹できるようなセイフティネットの整備を図ることをめざしながら、現在の金融問題の処理にあたっては、政策当局の責任の所在も踏まえ、政治的弱者の切り捨てにならないようなバランスのとれた対応が求められる。
その際、最優先課題として位置づけられなければならないのは、金融システムの安定性の確保であり、この点についての明確な認識が必要である。
さらに現在の状況を見ると、真面目に生活をし、真面目に働いてきたにもかかわらず、たまたまバブルの崩壊に巻き込まれ、理不尽な苦しみを味わっている罪少なき人が多数存在している。
経済政策としては、こうした人びとに必要以上の苦しみを与えないための配慮も必要ではないかと思う。
資産デフレというのは、資産の価格が下落することであるが、一般にデフレの発生は借金をしている人、つまり債務者に損失を与える。
債務者損失という。
この損失を軽減させるための政策措置は、結論だけいえばマネーサプライの増大政策であろう。
現在のマネーサプライの伸び率は明らかに低すぎると思われる。
マネーサプライの増大のために今回の政局変動においては、かろうじて政権交代という旗の下に非自民党派が結集できたわけであるが、政権交代を望む国民の意識と、政権交代を各自の党派に有利な展開に導こうとする、いわば党利党略優先の一部の会派の意識の間には大きなずれがあった点は見落とせない。
いってみれば政治の私物化という現象が、依然として尾を引いているわけである。
新時代にふさわしい経済システムとはさて、「日本システム」についてであるが、三十八年間続いた自民党一党支配の構造が今回の政局変動により打破された。
その時代背景には、一方に冷戦の終結にともなう五五年体制の必然性の消失という事態があり、一方に日本の成長率の下方屈折、つまり政治的安定下での官僚主導による高度成長の崩壊という状況が存在していた。
日本は今、戦後の五十年間を支えてきた政治経済システムに訣別し、次の五十年間あるいは二十一世紀に向けて必要となる、望ましい政治・経済システムへ移行する重要な過渡期に入ったわけである。
今回の政権交代は、そうした新しい時代の幕開けという意味合い住具体的な政策手段としては金利低下が必要になるのである。
今後の政治に求められる最も重要な理念は、国民のための政治という点である。
当然といえばあまりにも当然であるが、これまでの政治がそうであったように、国民が監視を怠れば、政治の私物化、党利党略の政治が持続する懸念は残る。
民主主義政治の方向を決定するのは、最終的には国民の選択である。
国民が単に選挙のときにだけ政治に参加するのではなしに、選挙後の政治家の行動に監視の目を光らせ、国民本位の政治を行なう者を支え、党利党略を優先する政治家を排除する厳しい姿勢がなければ真の政治改革は成立しない。
国民は政治の腐敗という批判をこれまで続けてきた。
そうした政治の腐敗をもたらした政治家を選出してきたのも国民である。
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